廣野文男作品集~思い出の中から・悠久の郷~
絵・廣野 文男
文・上野 道雄
田起こし
山里に春一番が吹くと、そろそろ田起こしの時期になる。村では、ほとんどの農家が林業との兼業だった。山仕事の合間をみて、父が牛を引いて田圃へ出る。あのころは小学校の高学年になれば、農繁期でなくても農作業の手伝いをしたものだ。子牛には、<ヒサシ号>という名前がついていた。「シーッ」「チョイ」。父の牛を追う声が、昨日のことのように聞こえる。掘り起こした土の匂いが心なしか温かく、もうすぐ本当の春が来る。
更新日 平成20年3月3日
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