テレビなど存在しない時代だった。ラジオさえ全戸には無かった。たまに小学校の講堂で上映される巡回映画が、最高の娯楽だった。子供たちの人気はチャンバラ映画である。その中でも、「鞍馬天狗」は最大のヒーローだ。誰もがアラカン(嵐寛寿郎)になりたかった。次は交替するから、と下級生をなだめて私はいつまでも主役を務めるのだった。「御用!」「御用!」「よらば斬るぞっ」。お寺の境内に喚声が響く。夕暮れが迫るまで、その声は消えなかった。
更新日 平成20年4月26日
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