重い玄関の引き戸を開け、「おばさん、いやはる?」と奥へ向って声を掛ける。家の中は静まり返って返事がない。すると、玄関脇の薄暗い牛小屋から、牛がぬうっと黒い顔を突き出して、「今、うちの人は留守ですけど」と言わんばかりの顔をする。牛の眼はなんと優しいのだろう。
牛は家族一番の働き者。農家の宝である。「末永くよろしく」と、母屋の中で家族同然に暮らしていた。餌は稻の藁を押し切りで細かく刻んで、大釜で焚く。子供達も時には草苅りを手伝って、新鮮な餌を食べさせるのだ。
更新日 平成21年3月18日
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