谷川に架かる橋に向かって僅かな勾配の上り坂、その100Mばかり手前にバス停があり、今日も一人の乗客が風呂敷包みを手に乗り込んだ。
ボンネット型の木炭バス。後ろにコマ切れの薪を一杯に積み込んだ箱と赤く錆のついた釜を背負って、ノロノロと走り出す。ブロ、ブロ、ロ……。頼りないエンジン音。このバス停附近は近所の子供の遊び場でもあり、いつも何人かの子供達がカンケリや縄とびで遊んでいる。遊びは中止。バスの後を追って走りだす。中にはバスの後部にぶらさがる者もいる。車掌はドアーを開けて「コラァー」と叫ぶ。いつもの風景である。
時にはこんなことも。グル、グル、グルン……エンスト。エンジンが懸からない。車掌が前に廻ってクランクを回すが、一向にかからない。
「お客さん、すみません。降りて押して下さい」
「おーい、お前達、一緒に押してくれ!」
やっとエンジンがかかりました。車掌は手を上げて、
「ありがとう」
あれはミゼットが未だ出現しない『ALWAYS 三丁目の夕日』より前の頃、昭和22~3年の頃ではなかったか? 記憶も遠くなった。
更新日 平成22年1月13日
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