広瀬寿子は南丹市が生んだ児童文学作家である。簡単に経歴を紹介すると、昭和12年(1937)に鎌倉市に生まれ、幼い頃に丹波に移り住んだ。旧丹波町の竹野小学校を卒業し、園部中学校・高校を卒業、京都大学職員を経て、昭和54年に夫の転勤でアメリカに暮らした時の経験をもとに書いた『小さなジュンのすてきな友だち』で児童文学作家としてデビュー、児童文芸新人賞を受賞する。平成15年には『まぼろしの忍者』で第27回日本児童文芸家協会賞、同じ年に『そして、カエルはとぶ!』で第33回赤い鳥文学賞を受賞するなど、現代日本を代表する児童文学作家である。
広瀬寿子の作品は、大きくリアリズム作品と娯楽作品の二種類に分けることができる。初期3作品はリアリズム作品に分類されるが、ここまでは母親の目線が強く混在して書かれていたのが、4作目の『ムウちゃんのおみやげ』からは母親目線ではなく純粋に子ども目線の物語を描くようになった。このことは、作家の主観や日常性を離れた物語世界へのきっかけになったものと思われる。そして、7作目の『サムライでござる』で初めて娯楽作品に挑戦し、広瀬寿子の文業は大きく飛躍する。この『サムライでござる』は、作者の祖母が住んでいたという亀岡市の光秀祭を題材にしたものである。
広瀬作品はリアリズム作品と娯楽作品に大別できるが、両者に共通するのは、異質な他者や異文化をありのままに受け容れる開かれた感性・資質である。また、広瀬文学は人生にとって避けられない別れや喪失をテーマにし、主人公の痛みの期間から再生に至る成長の物語を通じて、読者の心を癒す力を持っている。異質な他者や異文化への感性もそうだし、他者の痛みに対する感性もそうだが、広瀬寿子は共感能力が非常に高い作家なのだろう。そもそも、子どもというものが大人にとっての他者であり、異文化である。他者や世界に対する共感があふれている広瀬文学は、ある意味では主人公(視点人物)が子どもであるというだけとも言えるもので、大人がそのまま読めるのが特徴である。
このコーナーでは広瀬寿子の児童文学作品を紹介する。(樹)
更新日 平成20年1月28日
平成20年5月5日、産経新聞社が主催する第55回産経児童出版文化賞において、広瀬寿子さんが大賞を受賞されました。同賞は平成19年度に刊行された児童向けの新刊書を対象にしたもので、大賞・JR賞・美術賞・産経新聞社賞・フジテレビ賞・ニッポン放送賞・翻訳作品賞の7部門が授与されますが、広瀬さんは『ぼくらは「コウモリ穴」をぬけて』によって見事大賞を受賞されました。贈賞式は6月2日午後5時から東京・飯田橋のホテルメトロポリタンエドモントで行われます。
広瀬寿子さん、おめでとうございます。これからも素晴らしい作品を読ませて下さい。
更新日 平成20年5月8日
平成21年5月14日、広瀬寿子さんが、俳優・作家の高見のっぽさん、編集者・幼児教育教材の竹井純さんとともに、日本児童文芸家協会の第48回児童文化功労賞を受賞されました。午後6時よりアルカディア市ヶ谷の富士の間にて、贈呈式ならびに懇親会が開かれました。
広瀬寿子さん、おめでとうございます。
更新日 平成21年12月31日
広瀬寿子のデビュー作。作者は夫の仕事で娘と三人でニューヨークに滞在していた。帰国後の娘の10歳の誕生日に、アメリカ滞在当時、小さかった娘がアメリカでどのように過ごしていたかを書いて誕生日の贈り物にしたものがベースになっている。それを出版に当たって、一篇の物語として書き改めたものが本作である。
幼い女の子のジュンが、言葉も何もわからない異国のアメリカで色々な人と出会って、友達を作り、様々な人とふれあい、成長し、帰国するまでのお話。文化の壁を意識せずに異文化を現実として受け容れる子どもの体験を、素直に淡々と描いている。子どもの視線に寄り添いながらも、母親の視線で書かれており、むしろ大人が面白く読める作品だろう。
児童文芸新人賞受賞。
更新日 平成20年1月28日
デビューの翌年に出された第2作。
小学三年生のとよ子は内気な女の子。春に今の学校に転校してきたのだが、そろそろ冬になるのに友達もできていない。不器用なために、家の中でも活発な母親と兄から駄目な子扱いされている。そんな時、とよ子は誕生日に父親からハムスターをもらい、育てるようになる……。
人よりゆっくりな進み方だけれど、自分なりにがんばっている内気な女の子が少しだけ成長する姿を、いきいきと描いている。
更新日 平成20年1月30日
ももの木アパートに住むとどろき家の三姉妹、中学一年生のよし子、小学五年生のマミ、小学一年生の明子は、両親の都合で、一週間のあいだ、留守番することになる。果たして三人は子どもだけで一週間を乗り切れるだろうか……。
どこにでもありそうな日常のエピソードを積み重ね、淡々とした描き方をしながらも、いきいきと、ユーモアたっぷりの作品になっている。
更新日 平成20年2月1日
小動物が好きな小さな女の子ムウちゃんは、お姉ちゃんと田舎のおじいちゃんの家に遊びに行った時に体が真っ黒でおなかが真っ赤なアフリカ恐竜の子どもを見つけた。じつはそれはイモリで、おじいちゃんに捕まえてもらい家に持って帰るが、お母さんに「捨てなさい」と言われる……。
作者が初めて低学年以下の子どもを対象に書いたもので、それまでの母親と子どもの視線が混在していた書き方から、純粋に子ども目線の物語世界を開拓した作品である。
更新日 平成20年2月4日
ジュンはニューヨークで5年間暮らしていたが、帰国することになり、日本の学校に転校する。しかし、アメリカの学校との違い、文化の違いに大きく戸惑う……。
人物設定は異なるが、デビュー作『小さなジュンのすてきな友だち』の続編とも言える作品で、帰国子女が必ず直面する母国での異文化体験を描いている。日本社会の閉鎖性に対する問いかけと帰国子女に対するエールがこめられている。
更新日 平成20年2月6日
隣の家で男の子が生まれ、鯉のぼりを上げることになった。うらやましくなったムウちゃんは自分の家でも鯉のぼりを上げてくれるように母親にねだったが、男の子がいないからとあえなく却下される。どうしても鯉のぼりが欲しいムウちゃんがとった作戦とは……。
『ムウちゃんのおみやげ』の続編。泥んこ遊びや虫など大人の嫌がるものが大好きな子どもの感性を捉えた作品である。
更新日 平成20年2月9日
中学一年生の哲也と小学五年生の健二は、亀岡光秀まつりの武者行列を見に来た。騎馬武者が二人の目の前を通り過ぎて行ったその時、一天俄かにかき曇り、大きな雷が鳴り響く。観衆も行列の人々も驚いているところに、どこからともなく一頭の黒馬に乗った少年武者が現われ、明智日向守の家臣稲葉小太郎と名乗る……。
祖母が亀岡に住んでいたという作者が、郷土の祭を題材にして描いたスピード感あふれるジュブナイルSFの名作。
更新日 平成20年2月13日
幼稚園児のタッくん、小学六年生のおにいちゃん、小学三年生のおねえちゃん、お父さん、お母さん、猫のプータの五人と一匹の家族の日常を描いている。
9つのエピソードが収められていて、ユーモア4コマ漫画のような味わいがある。子どもならではのこだわりや思考方法に対する作者の観察眼が光り、読みながら思わずくすくす笑ってしまう大人が楽しめるコメディである。
更新日 平成20年2月17日
中学一年生のマーくん(正之)は、滋賀県の宏おじさんの家に遊びに来ていた。おじさんに連れられて、従姉妹の美沙ちゃんと一緒に甲賀の忍者屋敷に行くが、実はそこは9年前にも一度来たことがあり、兄のトシちゃん(俊郎)が行方不明になった場所だった。9年ぶりに忍者屋敷を訪れたマーくんは、探検中に屋根裏で秘密の抜け道を発見する。縄梯子を下りると、そこは本物の忍者がいる別世界だった……。
スピード感とスリルに満ちたストーリーの中にしみじみとした切なさが残る作品である。
更新日 平成20年2月19日
「ジュニア音楽ブックス クラシックの大作曲家」シリーズの第6巻で、ポーランド出身の作曲家フレデリク・ショパン(1810〜1849)の伝記。
幼い時のピアノとの出会い、ロシアから独立しようとしていた当時のポーランドの政治状況、作家ジョルジュ・サンドとの恋愛など、世界中の人々に愛されている数々のピアノの名曲を残した天才音楽家の生涯を描いている。
更新日 平成20年2月23日
小学生四年生の透には同い年のいとこの一平がいたが、一年前に交通事故で死んでしまった。透が一年ぶりに一平の家に泊まった時、幽霊の一平が現われ、図書室から借りっぱなしになっている本を返すように頼まれる。それは『満月の沼の伝説』という本で、満月の夜に願いがかなうという伝説が書かれていた……。
ポプラ怪談倶楽部と銘打たれたシリーズの一冊で、1990年代後半のホラーブームの流れで企画されたものだが、ホラーというよりは遺された者の喪失と再生をテーマにした作者らしい仕上がりになっている。
更新日 平成20年2月27日
小学五年生のケンタは、年子の妹の理子とばあちゃんと暮らしていた。ある日、友達の山ちゃんと空想の「泥棒計画」を立てる。その計画とは、瀬古じいの家にある宝石を盗み出すというものだった。二人は計画書をばあちゃんが作ったブロンズ像の内部に隠していたが、実際にその計画そっくりの事件が発生し、計画書もブロンズ像ごと消えていた……。
スリルと冒険に満ちた本格的ミステリーである。
更新日 平成20年3月4日
「人間ドラマで20世紀を読む」をコンセプトに企画された「物語・20世紀人物」第6巻で、ジュニア向けの偉人伝である。野火晃・広瀬寿子・真鍋和子・天沼春樹・高橋宏幸の共著で、広瀬寿子は「ウォルト・ディズニー〜夢と魔法の国をめざして」を担当している。
ウォルト・ディズニー(1901〜1966)は、アニメーションの開拓者で、ディズニーランドで知られる芸術家。漫画家を目指していた青年ディズニーがアニメーションと出会い、それをどんどん革新し大衆化していった軌跡を描いている。
更新日 平成20年3月8日
小学四年生の宏平は、夏休みに、去年東京から長野に引っ越した友達の修の家に遊びに行った。修にはひいおばあさんがいて、近くに住んでいる。ひいおばあさんの暮らす戸隠には天狗の伝承があり、二人はそれを調べに行く。そこでひいおばあさんから、実はひいおばあさんの大じいさんが天狗だったと教えられる……。
民話を題材にした日本風のファンタジーで、活劇の中にも切なさがある広瀬寿子ワールドならではの作品。
更新日 平成20年3月13日
小学六年生の高橋渉は、伊賀の赤目四十八瀧に死んだ父親の約束を果たしに行く。そこで戦国時代の伊賀にタイムスリップするが、瀧から落ちた時に記憶を失ってしまい、小源太と名付けられて伊賀の忍者の里で暮らすことに……。
『風になった忍者』以来久々の忍者物である。中学生以上向けの内容で、作者としては最も読者年齢層が高い作品。児童文学ではあるが、織田信長の伊賀攻め前夜を扱った伝奇的時代小説として大人にも読みやすい。第27回日本児童文芸家協会賞受賞。
更新日 平成20年3月17日
小学校低学年の修平には難病で入院ばかりしている良という弟がいる。そのために父親も母親も弟にかかり切りで、修平はさびしさを抱えていたが、家族のことを考えて我慢していた。しかし、ある日不満が爆発してしまう……。
病気の兄弟姉妹のために構ってもらえず、一種のネグレクトで苦しむ子どもたちへのエールとして作者が書いた心温まるストーリー。第33回赤い鳥文学賞を受賞。
更新日 平成20年3月21日
小学生のカイは、夏休みに、作家をやっていたおじいちゃんの家に一人で遊びに行く。そこでおじいちゃんから実はおじいちゃんは忍者であるという秘密を教えられ、そのうえカイ自身も忍者の卵の怪丸(あやし丸)で、お城のお姫様の相手をする小姓だと教えられる……。
主人公のカイ、そして読者の子供たちが、勇気や力を手にすることができる小学校低学年向けの冒険ストーリー。
更新日 平成20年3月26日
小学三年生の男の子あゆむのイトコのつうくんのお母さんが亡くなり、一時的にあゆむの家でつうくんを預ることになった。あゆむはつうくんとなかなか仲良くなれなかったが、ある時、二人であゆむの秘密基地のコウモリが棲む洞窟を探検することに……。
大切な家族を失い、残された者たちのさびしさを描いた切なくも心温まる作品である。第55回産経児童出版文化賞大賞を受賞。
更新日 平成20年3月28日
飼い主が転勤して野良猫になってしまった猫が、二つの家族に拾われる。猫は二つの家を行き来するが、それぞれの家族は自分の家の猫だと思っていた……。
人間以外の動物が主人公の物語はこれが初めてだが、擬人化されているわけではなく、基本的にリアリズムで描かれている。平仮名もたくさん使われていて子ども向けに書かれているのだろうが、大人のための心癒される童話として読める。一人暮らしの女性などにおすすめ。
更新日 平成20年4月1日
国民学校三年生の直子は、戦時中に東京から看護婦の祖母と二人で口丹波の小さな村に疎開してきた。戦争は終わるが、身寄りのない二人はそのまま村に残り、自然の中で精一杯暮らしていた……。
広瀬寿子の最新作。船井郡の旧丹波町に疎開してきた作者の体験を素材にして書かれている。戦争が終わり、祖母が自決用に持っていた青酸カリの瓶をかくれ森のくすの木の根元に埋めるところから物語は始まる。広瀬文学らしく、生と死に出会いながら成長していく子どもの姿を、詩情豊かに描いた作品である。
更新日 平成20年10月11日
小学校四年生の修は、勉強も運動も苦手で、引っ込み思案な性格の子。友達は去年のクリスマスに買ってもらったうさぎのチイ子だけだった。そんな修が、ある日、隣りの席の小野くんから、古ぼけた洋館に住む近所のおばあさんのところへ行こうと誘われ、そこから修にとって新しい体験がはじまるのだった……。
広瀬寿子の二年ぶりの作品。昭和55年に書かれた2作目の『風のむこうの小さな家』と似た設定の作品だが、動物を育てることで成長するというものではなく、人との出会いや別れという人間関係によって成長し、それまでの人間関係を再構築するというストーリーになっている。作者の心境を反映してか、おばあさんの人物像にも力点が置かれているところにこれまでとは少し違う特徴がある。
更新日 平成23年3月4日
小学生の透は、カメラマンの父親と二人暮しをしている。父親が取材旅行の時はそれまで伯母さんの家に預けられていたが、伯母さん一家が転勤で外国に行ってしまったので、父親の故郷にいる父親の友人のもとに預けられることになる。そこで、キツネと小ブネという二人の少年と友達になり、野ガラスという名前をもらって秘密結社に入り、町の歴史を守る使命を果たすための活動を始める……。
孤独な境遇の少年が、自分のルーツと出会い、周囲の他者の本当の姿を認識することで成長するという広瀬寿子らしい作品。
更新日 平成23年8月16日
小学校三年生のサトシは、東京から父親の故郷に転校することになった。中学受験をする出来のいい兄の邪魔にならないように、夏休みの間だけ祖父母の家で暮らすことになる。そこで祖母から、祖父の家系は陰陽師安倍清明の子孫だと教えられる。そんなある日、ゆらゆら橋という吊り橋の向こうから、安倍清明の弟子の陰陽師見習いの捨丸という少年がタイムスリップして現れる。そして、サトシの友達ということにして祖父母の家の離れに住み着き、落ちこぼれ陰陽師の捨丸と捨丸の式神の女の子しじみちゃんが修行をすることに…。
広瀬寿子が得意とするタイムスリップ物で、同じく広瀬寿子らしい劣等感を持った子供の成長物語である。捨丸としじみちゃんのキャラクターが物凄く可愛らしく、ほのぼのとして楽しい作品。
更新日 平成23年10月17日
南丹ゆかりの人物を紹介
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随筆家上野道雄の連載エッセー
京の名工廣野文男のふるさと画集
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墨絵で綴る南丹の風景
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児童文学者広瀬寿子の作品を紹介
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