南丹生活

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高樹のぶ子『満水子』(上下巻)

満水子・上

芥川賞作家の高樹のぶ子が、日吉ダムに沈む村の出身者を題材にして描いた長編ロマン。

新進気鋭の女流画家、湯浅満水子の取材を始めたフリーライターが、取材の過程で満水子と恋愛関係になる。謎めいた満水子のことを取材のためという動機を越えて調べて行くうちに、近々ダムで沈もうとしている村の出身であったという過去が浮かび上がってくる……というストーリーで、満水子の謎の解明をミステリ仕立てで描いている。

日吉という場所を前近代的で土俗的な失われつつある日本として、満水子自身も古い日本のシャーマン的存在として設定しており、全体に伝奇的な雰囲気が漂っている。湯浅満水子は子を除くすべての名前の文字が水に関連し、水の絵しか描かない画家であり、小説にはダムに沈む村をはじめとして水のイメージが通奏低音のように流れている。幻想的な恋愛小説として非常に魅力的な作品である。

初出は『満水子1996』というタイトルで東京新聞などに連載されたもの。単行本は上下巻で、平成16年には文庫化もされた。

※付記

『満水子』については、上野道雄の連載エッセイ『軟淡今昔』第3回「日吉ダム秋へ」の中でもふれられている。

講談社/平成13年初版

更新日 平成19年11月13日

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川上明子『月の天使』

月の天使

著者は美山町出身、平成16年(2004)にファンタジー小説『月の天使』でデビューした平成生まれの小説家。

『月の天使』は、月の天使が支配する世界を舞台に、月の天使の守護を受けた王家の姫の流離を描いた異世界ファンタジーで、世俗化した世界における聖なるものをテーマにしています。

装飾過剰にならない端正で典雅な文章で書かれています。執筆当時著者は中学生であり、その早熟な文才には驚かされます。

文芸社/平成16年初版

更新日 平成19年11月14日

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西浦左門『山村の十二ヵ月〜丹波美山の暮らしと民俗』

山村の十二ヵ月

著者は昭和9年に美山町深見に生まれ、昭和33から40年にかけてNHKラジオ「昼のいこい」に郷土の季節便りの投稿を続けていましたが、昭和44年に美山町誌編纂委員になったのを機に、美山町の民俗学的調査を本格的に始めた在野の民俗学者です。

本書は「昼のいこい」に投稿した文章や『近畿民俗』に執筆した「丹波美山暮らしの歳時記」を加筆補正してまとめたものを集め、山村民俗の会編「シリーズ・山と民俗」の別篇14巻として刊行された本です。主に昭和中期〜後期に行なわれていた美山地方の暮らしや民俗信仰などを歳時記的に編集しています。

エンタプライズ/平成2年初版

更新日 平成19年11月16日

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岡本千鶴『健康酒入門』

健康酒入門

著者は美山町静原にある旅館「つるや」の女将で、野の花の生け花や花実酒研究家として知られる人。

本書は果実や花を使ったオリジナル健康酒の作り方と楽しみ方、効用を紹介した入門書で、健康酒五百種類達成記念として出版された、著者十数年の研究の成果の集大成とも言える本です。甘味を少なくすることで糖尿や肥満の人にも安心して楽しめる健康酒作りを基本に、子供やお酒を飲めない人のためにノンアルコールの梅シロップも紹介しています。

コンパクトな文庫サイズで、可愛らしいカラー写真が多数掲載されており、見ているだけでも楽しめる本です。

保育社/昭和57年初版

更新日 平成19年11月18日

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岡本千鶴/撮影・田淵暁『続・野の花三百六十五日』

野の花三百六十五日 続

美山の旅館「つるや」の女将で野の花の華道家・花実酒研究家である著者が、4月から3月までの一年間をかけて、一日一つずつ、四季折々の野の花を使った生け花を活け、その写真を収めた本です。続とありますが、第1巻は池沢昭夫・洋子夫妻による著書で、続編を岡本千鶴が手がけることになったもの。

野の花の生け花は決して特別なものではなく、丹波の女性たちが昔からふつうに楽しんできたもので(恐らく他の地方の人々も同じだと思います)、著者は「花遊び」と言っています。とは言え、ひとことで野の花三百六十五日と言っても、毎日休みなく活けるとなると、簡単なことではありません。毎日趣向を変えて三百六十五日活け続けた女将の才能と花遊びを楽しむ能力の素晴らしさは言うまでもありませんが、花屋に売っている花ではなく、日常の生活圏の中にある花や実、草の葉や木の枝などを使って生け花を活けるのですから、自然の恵みがあればこそで、丹波に暮らす幸せを改めて感じさせられます。このような日常の風流を忘れずに受け継いで行きたいものです。

文化出版局/昭和58年初版

更新日 平成19年11月20日

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岡本千鶴/撮影・竹中勝『野の花を楽しむ』

野の花を楽しむ

美山の旅館「つるや」の女将で野の花の華道家・花実酒研究家である著者の生け花の写真と短文を収めた本です。

つるやを始め、美山の各所で活けた野の花のカラー写真が多数収められています。花器だけではなく、様々な器を利用して活けられた四季折々の野の花の姿は、風雅の極地と言うべきもので、ずっと眺めていたい美しさです。その雅は、前著『続・野の花三百六十五日』の時よりもさらに増しているようです。写真に添えられたさりげない文章にも味わいがあります。

家の光協会/平成6年初版

更新日 平成19年11月22日

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湯浅貞夫『親が子供に語る 丹波の村落史』

丹波の村落史

著者は昭和3年(1927)に園部町で生まれた著述家です。京都府立亀岡農学校を卒業後、共産党の活動家として活躍する一方、唯物弁証法と史的唯物論の歴史観による歴史書・歴史物語を多数執筆しました。平成8年(2000)に亡くなっています。

本書は著者の故郷である園部町埴生の歴史を語った本です。埴生は古代の旧山陰道の駅でもあった古い歴史を持つ宿場町ですが、著者はこの小さな町の前史時代から近現代までの通史を愛情をこめて語っています。少なくとも中世後期以降は今の住民たちの先祖の話であり、近代以降になれば多くの住民が実際に体験し、記憶している出来事です。このような顔を持った歴史、血の通った歴史を読むと、歴史というものは地方史・郷土史でなければ、という気さえしてきます。

湯浅貞夫/昭和58年初版

更新日 平成19年11月25日

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湯浅貞夫『天明の地鳴り〜口丹波一揆物語』

天明の地鳴り

18世紀後半の天明年間は大飢饉が起こり、全国で一揆が頻発していた。口丹波でも、天明7年(1787)11月8日から23日にかけて、一揆が発生した。11月8日、八木の観音寺・西田・屋賀、亀岡の馬路・北中・国分などの農民の代表者が集まり一揆の相談を始め、賛同する者が6〜700人にふくれ上がり、11月19日夜明け、遂に打ち毀しが始まった。その後の数日間、口丹波各地で小百姓を中心に43ヶ村が呼応して決起、酒屋・米屋・油屋などの豪商、代官所・庄屋宅などを打ち毀しつつ移動し、園部城や亀山城に押し寄せるなどの行動を行ない、最終的には総勢2万人を超える擾乱になった。そうしてエネルギーを発散した一揆は、23日には終息し、25日から首謀者・参加者の中から200人以上の捕縛が始まった。

本書は、この天明の口丹波一揆の顛末と歴史背景を、権力者の歴史ではなく民衆の歴史として、階級闘争史観から描いたもの。一揆の経済的・政治的・社会的な史料や分析は客観的であり、歴史を見る判断材料になる。口丹波一揆という語られることの少ない郷土の歴史を、一貫した記述としてまとめた意義は大きい。

表紙絵はかつて八木町に暮らしていた画家田島征彦が描いている。

かもがわ出版/昭和61年初版

更新日 平成19年11月28日

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湯浅貞夫『目でみる京都の民主運動史』

目でみる京都の民主運動史

体制変革を目指す革命運動だけではなく、体制内の民主主義運動も含めた近代(大正期以降)京都の左翼運動史。京都の民主運動史を語る会の機関誌「燎原」に40回にわたって連載されたものをまとめた本です。

戦前と戦後の2部構成で、米騒動・全国水平社や日本共産党の創立から、戦後の労働争議や安保闘争などを見開き2ページずつのトピックにして解説しています。写真・ポスター・新聞などの図版も豊富です。

内容的・文体的にプロパガンダ(政治的宣伝)色が強いですが、著者は園部町出身・亀岡農学校卒業・日吉町在住の人だったので、南丹地方の資料・写真・話題も頻繁に登場します。

かもがわ出版/平成3年初版

更新日 平成19年11月30日

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湯浅貞夫『湯浅貞夫のヨーロッパ駆け歩き』

湯浅貞夫のヨーロッパ駆け歩き

平成6年の5月28日から6月6日までの10日間、日吉町職員を退職した奥さんの京都府市町村職員厚生会主催「退職記念ヨーロッパの旅」に同伴することになった著者が、日吉町・園部町・和知町・瑞穂町・夜久野町・木津町・精華町・城陽市・南山城村などの退職者夫妻と一緒に、西欧の6ヶ国を訪問した紀行です。

名所を駆け足で回っていく観光旅行なのですが、貴族とブルジョアジーと革命と民主主義の歴史を持つヨーロッパが、歴史家であり、筋金入りの日本共産党員ならではの観察によって記述されています。世界中に進出している日本企業とそこで働く日本人の努力と貢献が全く評価されていないのが残念ではありますが、ユーモアあふれるいきいきした文章で、明朗快活な著者の資質が全開した紀行になっています。

文理閣/平成7年初版

更新日 平成19年12月6日

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